スーツを着た悪魔【完結】
――――……
「――じゃあ、明日楽しみにしてるよ」
人通りのない静かな夜だった。
一方的に通話を切った悠馬は、アパートのまゆの部屋のカーテンから手の中の携帯へと視線を移動させる。
間違いない。まゆは自分から離れようとしている。
彼女が幼いころにかけた呪いが解けようとしている。
引っ越したくないと言われたあの日から、薄々異変は感じていた。
十年以上ささやき続けた言葉は、まゆを非常に劣等感の強い女に育てたのは間違いないが、まゆだっていつまでも子供ではない。
自分が知らない間に、何かが彼女を変えたのだ。
そのことを考えるだけでジリジリと胸の奥が焦げ付く。いら立ちを押さえられない悠馬は、唇をかんだ後目を閉じる。
まゆを変えた何か――
それはもしかしたら男かもしれない。
まゆは目立つタイプではないが、十分に魅力的だし、まゆの凍てついた心を溶かそうなんてことを考える酔狂な男がいたっておかしくない。
男の影を疑った悠馬は、ついさっき電話をする前からカーテンの奥に目を凝らしていたが、電気をつけ部屋の中を動く人影はまゆ一人だったことを確認した。