スーツを着た悪魔【完結】
「告白されて断ったら、乱暴に腕をつかまれて、キスされそうになったって。あのころまゆは苛められていただろう? もう庇ってやらないって言われて、まゆは泣いて帰って来たね」
彼はそのあと、どうなった?
急に一か月ほど学校を休んで、それから転校していかなかった?
「男なんてみんなそんなものさ。その点僕は、まゆのことを可愛がっても、一度だって手を出したことはない。信用できるのは僕だけのはずだよ」
まゆの喉はきゅうっと絞まったまま。
青い唇から漏れるのは細い息だけ――
息の仕方すら忘れてしまいそうだった。
「人が犯した罪を、その命を持って購わなければならない裏切りを、神の子が身代わりになって死ぬ。アスランの物語を覚えてる?」
幼いころ、悠馬に読んでもらったナルニア国物語
偉大なる王アスランは、石の舞台の上で犠牲になる――
「あの時、おじさん、おばさんと一緒に本当は死ぬべきだったのにまゆは死ななかった。間違って生き残ってしまったんだ。わかってるね」
耳鳴りがどんどん激しくなる。
目の前にいるはずの悠馬が遠く感じる。