スーツを着た悪魔【完結】
おぼつかない足取りで、悠馬に体を引きずられるように歩いていたまゆだったが、かすかに残る理性で
「や、悠ちゃん、行か、ない……」
と、抵抗する。が、抵抗虚しくそのままエレベーターへと押し込まれてしまった。
過去悠馬と話すたび、ひどく混乱して取り乱すことはあったが、今日は異常だと、まゆは感じていた。
胸がザワザワして、息苦しい。
誰かが耳元で叫んでいるような、同時に自分も一緒に叫びたくなるような、妙な昂揚感を全身が包んでいる。
体が言うことを聞かない。
いやだ。行きたくない。
悠ちゃんと二人っきりになりたくない。
行ってはいけないと体中が叫んでいる。それは防衛本能のようなものだったが、今の無力なまゆでは、悠馬の足を止めることはできなかった。
「まゆ。少しやすめばよくなるよ」
「や、だ……みさ、お……みさ、」
「まゆ……」
まゆの口から聞く男の名前に、悠馬はため息をつく。そして改めてまゆの耳元でささやいた。
「今度その名前を口にしたら、首を絞めるよ? 僕はそういうプレイが本当は一番好きなんだからね」