スーツを着た悪魔【完結】
『本当、お前相当な奴だな』
携帯の向こうの深青は、低い声でささやく。
相当なヤツ――って。
「あっ……あなたにそんなこと言われる筋合いありませんけど!?」
普段はかなり温厚で、我慢強いまゆだが、なぜかこの男には本気で切れてしまう。理由はわからない。けれど失礼な奴だから失礼な態度を取ってもいい、というのとは少し違う、複雑な感情だ。
『――そんな口、俺に聞いていいわけ? このMDのピアス、お前のだろ』
MD(エムディー)
まゆがイトコに頼まれていたアクセサリーブランドの名前だ。
「あなたが持ってたんですか!」
『拾ったんだよ』
「返してください」
『はい?』
まゆの強い口調に、厭味ったらしく深青は言葉を返す。
『その態度はない。マジ、ない。親切で電話してやってるのに』
「――すみません……」