スーツを着た悪魔【完結】
「だってヨリは身内みたいなもんだし。刺激はないし」
「――」
「ふふっ。そんな眉にしわ寄せたら、女子が怖がって逃げちゃうよ?」
未散は細くて長い指で、頼景の眉と眉の間を、つん、と押す。
「馬鹿……」
険しい表情をした頼景だったが、未散は特に気にせず笑っている。
会社では、影で女性社員に『孤高の王子様』と呼ばれている頼景に、こんなふざけた真似をするのは未散くらいだったが、一見ラブコメに見える二人の間は実は熱い友情で結ばれている。
「あーあ。にしても、お兄ちゃんは仕事だとか言って遊んでくれないし……。まゆちゃん、遊べないかなぁ……会いたいのになかなか都合があわないんだよね」
二人は車を降りると、キーをボーイに預け、エントランスをまっすぐにつっきりエレベーターへと向かう。
ちなみに豪徳寺家本家当主はこのブルーヘブンホテルの経営陣とも親戚関係にある。
そして未散の両親も、何十年も通っているので、未散にとってもここは「庭」のようなものだった。