スーツを着た悪魔【完結】
何も見てないようで見ているとはまさにこういうことを言うのかもしれない。
頼景は舌を巻きつつ、未散を横目で見つめる。
「あーたくさん歩いたからおなか空いちゃったぁ」
「――俺は胸いっぱいだけどな……」
「まぁまぁ。ここは私がご馳走してあげるから」
「それはどうも」
ニコニコ笑う未散と見ていると、怒るのも馬鹿らしくなる。
未散は、頼景にとって妹のようなもの。
彼女のわがままには長年付き合わされてきた頼景だからこそ、いくら言ったところでのれんに腕押し、ぬかに釘。仕方ないと諦めるすべを知っていた。
頼景は深くため息をつきつつ、目的の階へ到着したエレベーターで未散と降り、レストランへと向かったのだが――
「ん……?」
「――どうしたの?」
立ち止まった頼景を未散が見上げ、それから彼の視線の先を追い、目を丸くする。