スーツを着た悪魔【完結】
「ま――ふがっ」
大声をあげそうになった未散を頼景は後ろから抱き寄せ、口元を手のひらで覆う。
そして彼らから死角になるよう、壁際に身を寄せた。
それは、二人が知らない、見知らぬ男に抱えられた『まゆ』だった。
どう見ても尋常じゃない様子のまゆと、妙に落ち着き払った男の組み合わせは、未散と頼景の至極真っ当な精神をざわつかせるおかしな雰囲気を醸し出している。
二人が乗り込んだエレベーターのドアが閉まると同時に、頼景は未散から手を離す。
「今の、どう見た?」
「意に沿わない男にお持ち帰りされてるまゆちゃんに見えた」
「――深青に連絡しろ」
「うん!」
頼景が言うや否や、素早くバッグを開けて携帯を取り出す未散。
そして頼景は下降していくエレベーターの階数を見て、それから二人の進行方向にあるなじみのレストラン『La violette cristallisee』へと視線を巡らせる。