スーツを着た悪魔【完結】
すると顔見知りの給仕が、レストランに入ってこずウロウロしている二人の姿を発見したのか、レストランから駆けだしてきた。
「朝倉様、豪徳寺様……!」
「今の客、知り合いなんだ。女のほう。いや、はっきり言う。深青の恋人だ」
「え!」
若い給仕はさすがブルーヘブンホテルのレストランで働くだけあって、実に落ち着いた男だったのだが、さすがに頼景の言葉に驚いたようだ。
「あの……」
「彼女は深青の大事な人だ。もしかしたら犯罪に巻き込まれる可能性だってある。決して君の罪にはならないようにするから、知っていることを教えてほしい」
ここは日本を代表する老舗ホテルだ。
客のもてなしも超一級で、当然のごとく知り合いだからと言って利用客のことを話すことなど言語道断なのはわかっていた。
が、そんな悠長なことを言ってはいられない。
頼景は給仕に詰め寄り、厳しい眼差しで彼を見据える。