スーツを着た悪魔【完結】
給仕はしばらく悩むように口ごもっていたが、やはり彼の目にも異常に見えたのだ。慎重に、言葉を選びながら口を開いた。
「――お連れ様は、彼女の『自分の妻』だとおっしゃっていました」
「妻!?」
「悪酔いされたとかで、部屋で休ませると……」
「悪酔いするほど飲んでいたのか?」
「いえ、グラスに赤ワインを一杯だけです。あとは食後にエスプレッソを……」
「グラス一杯で悪酔いなんておかしい。まゆちゃん、そんなに弱くないよ。前三人でここに来た時、普通に飲んでたわよ。っていうかもう、お兄ちゃん電話に出ないっ!!!」
未散はじれったそうに足を踏み鳴らした後、
「きっと私が掛けてるから出ないんだよ、仕事の邪魔だとか思って! ヨリが掛けて! で、私、支配人室行ってくる!」
と、頼景が止める間もなく、走り出していた。