スーツを着た悪魔【完結】

頼景には言わなかったが、未散は抱えられたまゆらしき女性を見て嫌な予感がしたのだ。


世界的に活躍するショーモデルの未散は、それこそショービジネスの裏も表も見てきた。


華やかなランウェイだけがモデルの住む世界ではない。

挫折したモデルや、元から欲望に弱い女の子たちは、簡単に薬に手を出し、あんなふうに――


昔の記憶がフラッシュバックし、先ほど見た景色と重なった。

まさかと思いつつも、背筋に悪寒が走る。


いったいどうしちゃったのよ、何があったのよまゆちゃん!

そしてお兄ちゃんのバカッ!

こんな時にどこで何してるのよ!


未散は唇をかみしめながら、昔、何度も遊びに行ったことがある総支配人室のドアを力強くノックする。



「はい」



ドアの向こうから、顔なじみである総支配人の返事が返ってきた。



「お久しぶりです、豪徳寺未散です。ご相談があります!」




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