スーツを着た悪魔【完結】
深青の着ていたシャツをつかみ、そこに顔を押し付ける。
懐かしいすみれの香り――
大好きな深青の香り。
その瞬間、まゆの中で何かが切れてしまった。
唇から洩れるのは「うっ、ううーっ……」という低い声だけで、深青の名前すら呼ぶことが出来なかった。
「まゆっ……」
どれだけ怖い思いをしたというのか。
深青は泣きそうになるのを必死でこらえながら、まゆを抱きしめる。
「もう大丈夫だ。もう、大丈夫だから……」
必死で言い聞かせるが、まゆは野生の手負いの獣のように唸り声をあげ続けるだけ。
仕方なく、深青はしがみついたまま離れようとしないまゆをそのまま抱き上げ、バタバタと救急隊員に運び出される悠馬を見送りながら、未散に問いかけた。
「――未散、お前、鍵持ってるか?」
「鍵?」