スーツを着た悪魔【完結】
深青はまゆと一歩ずつ、踏みしめるように階段をのぼり、向かって右側の部屋のドアを開け照明をつけ、まゆを部屋の真ん中にある布張りのソファーへと座らせた。
バルコニーに続くガラス窓を開け放ち、風を入れる。
初夏の風は涼しげに、木々を揺らしながら部屋の中へと入ってきた。
「すぐに戻る」
うつむくまゆの頬を撫でて、続き部屋のバスルームへと向かい熱いお湯をためる。
戻ってくると、座らせたはずのソファーの上で、まゆは膝を抱えて泣いていた。
「まゆ……」
隣に腰を下ろし、そのまま彼女の体を抱き寄せる。
季節は初夏だというのに、体はびっくりするほど冷たくなっていた。
他にどんな言葉をかけていいかわからない。
ただ抱きしめて、側にいてやることくらいしか深青には思いつかない。
けれど確かに、まゆにはそれが一番の特効薬だった。