スーツを着た悪魔【完結】

そうやってしばらく泣いていたまゆだったが、深青の着ていたシャツがしっとりと濡れるころには少し落ち着きを取り戻したようだ。



「風呂、入るか?」

「うん……」



まゆは深青に促され、ゆっくりと立ち上がってバスルームへと向かう。


着ているものをすべて脱ぎ、猫脚のバスタブに身を浸す。


頭の中は真っ白だった。

悠馬に噛まれた首筋がピリピリと痛んだが、その痛みもどこか他人事としか思えなかった。



バスルームには直接壁に打ち付けられた大きな鏡がある。

その中の自分の姿に、心臓がぎくりと痛くなる。

慌てて目を逸らしたその先にあるクローゼットを開けるとたくさんの、真新しいバスローブが入っていた。

濡れた体の上にそれを羽織ると、お日さまの匂いがした。


ほんの少しだけ気持ちが楽になる。


けれど、まるで涙腺が壊れたかのように涙は流れ続ける。


深青に助けてもらったのに、いったい私はなにが悲しいんだろう?



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