スーツを着た悪魔【完結】
そして体の前で腕を組み、私を見下ろす彼。
きっと嫌な女だと思われたんだ。
だからこうやって見下ろされてるんだ。
彼の態度からその事実に気づいて、顔が熱くなった。
だけど――
関係ない。
今どう思われようが、次はないんだから。
彼の名前は豪徳寺深青。
由緒正しき旧家の生まれで、いわゆるエリート。違う世界に住む人。
今日、小さな食品会社をリストラされた私と会うことなんか、二度とないだろう。
「失礼します……」
廊下に落ちた荷物をバッグに放り込んだあと、彼を見上げないまま会釈し、そのまま足早に立ち去った。
リストラも、口止め料のことも、事故にあったと思って一刻も早く忘れよう。
これ以上みじめな気持ちになんかなりたくない。
もうたくさんだ……。