スーツを着た悪魔【完結】
彼女の言葉が聞き取れなかった深青は、一歩歩み寄りまゆの顔を覗き込む。
「……抱いて」
まゆは淡々とした様子でうつむき、バスローブのベルトに手を掛けた。
抱いてって……。
呆然としている深青の前で、まゆの肩がむき出しになり、胸へと続くラインが目に入ったところで、深青は立ち止まり、慌てて落ちそうになるバスローブを引っ張り上げるようにしてまゆを包み込んだ。
「馬鹿っ! なにやってんだ!」
「だってっ……」
顔をあげたまゆの瞳から、大粒の涙がこぼれる。
「わたし、ずっと、怖くて、出来なくてっ……でも、またこんなことがあったら、やだ、いやだよっ……! 深青じゃないといやだっ……」
まゆは肩を震わせ、唇をかみしめた。
そう。深青に埋めてほしかった。
他の誰にもそれは出来ない。彼に、今開いた傷を慰めてほしかったのだ。