スーツを着た悪魔【完結】

「聞いてくれる?」

「ああ……」

「全てをはっきり覚えているわけではないんだけど……」



まゆはそう断って、昔のことをぽつりぽつりと話し始めた。



「両親が商売に失敗して、大変な借金を抱えて……夜逃げしたの。どこか山の奥だった……。子供の私は、両親の言うことの半分もわからなかったけど、日に日にぎすぎすしていく両親が怖かった……」



小さな集落の外れで、一週間、二週間――

何もせずに、息をひそめるように三人で暮らしていた。


酒ばかり飲んで現実逃避をする父と、それをなじる母。

まゆは息をひそめるように、現実逃避をするように、家を出た時に持ってきた絵本の同じページばかり眺めていた。



「両親が死んだのは火事だった……ひどい雨だったのに、火は消えなかった。生き残ったのは私だけで、でも……」



まゆは片手で自分の胸の下を撫でる。



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