スーツを着た悪魔【完結】
ひきつったような大きな傷。
火を放ったのは私を刺してからなのか、それとも刺す前だったのか。どちらが先か。わからない。
ただ両親は間違いなく私を道連れにしようとした。それは事実だ。
「そして私は、悠ちゃんの家に引き取られた……」
まゆは目を閉じ、そのまま深青の胸にぎゅっと額を押し付ける。
深青は無言で、まゆの頭を撫でた。
一人生き残ったまゆが、両親から一度たりとも愛されていなかったとは思わない。命を奪うほどの傷ではなく、躊躇ったから、まゆは死なずに澄んだのかもしれない。
けれど自分が今、思いつきで何かを言うのは嫌だった。
記憶は薄れても、なかったことにはならないのだ。
「まゆ……」
深青はまゆの手の甲の上に、自分の手のひらを重ねた。
まゆは無言で、深青を見つめる。
真摯で、どこか思いつめたように見える黒い瞳が、淡く濡れて輝いている。