スーツを着た悪魔【完結】

ひきつったような大きな傷。

火を放ったのは私を刺してからなのか、それとも刺す前だったのか。どちらが先か。わからない。

ただ両親は間違いなく私を道連れにしようとした。それは事実だ。



「そして私は、悠ちゃんの家に引き取られた……」



まゆは目を閉じ、そのまま深青の胸にぎゅっと額を押し付ける。

深青は無言で、まゆの頭を撫でた。


一人生き残ったまゆが、両親から一度たりとも愛されていなかったとは思わない。命を奪うほどの傷ではなく、躊躇ったから、まゆは死なずに澄んだのかもしれない。


けれど自分が今、思いつきで何かを言うのは嫌だった。

記憶は薄れても、なかったことにはならないのだ。



「まゆ……」



深青はまゆの手の甲の上に、自分の手のひらを重ねた。


まゆは無言で、深青を見つめる。


真摯で、どこか思いつめたように見える黒い瞳が、淡く濡れて輝いている。


< 507 / 569 >

この作品をシェア

pagetop