スーツを着た悪魔【完結】
本当の優しさ
まゆは病室に行く前に一度自宅に戻りたいと深青に頼み、部屋から大きなトートバッグを抱えて戻って来た。
それから近所で仲良くしているというフラワーショップでビタミンカラーの花束を買い、深青が運転する車に乗り込む。
悠馬のいる特別室へと向かうまゆと深青だったが、彼女が一番緊張したのは、病室のドアに立った時だった。
何度も深呼吸をし、心を落ち着かせた後、やっとのことでドアをノックしようとこぶしを振り上げた瞬間、
「まゆっ!?」
甲高い声がまゆの名前を呼んだ。
「え?」
声のしたほうを振り返ると、そこには一人の女性――
悠馬の妹であるメミが立っている。
「メミちゃん……」
「どうしてあんたがここを知ってるのよ。わざと連絡しなかったのに……」
不愉快そうに顔を歪め、メミはつかつかとまゆに向かってやって来る。
が、まゆの側に深青が立っているのに気付いて、驚いたように立ち止まった。