スーツを着た悪魔【完結】
兄といい、この男といい、なぜ『まゆ』なのだろう。
どこにでもいるような、パッとしない女ではないか。
歯がゆくて唇をかみしめる。
数日前、久しぶりに悠馬から連絡があって、あれこれと用事を頼まれたのだけれど、兄は怪我の理由も詳しく教えてはくれなかった。
階段から足を滑らせたの一点張りだったし、病室に長くいることも許してもらえなかった。
それでも兄は秘密主義だからと我慢していたが、薬で眠っているときに、まゆの名前を口にしたのだ。
ただ一言「まゆ……」と。
その言葉を聞いたとき、メミはとっさに兄の首を絞めそうになった。
それくらい許せなかった。
私は血の繋がった妹なのに。
私のほうがずっときれいなのに。
どうして誰も私を好きになってくれないの!?
メミは叫びたいのをグッと我慢して、足早にその場から離れていた。