スーツを着た悪魔【完結】
彼は何がおかしいのか、しばらくの間まゆや深青を置いてけぼりにしたまま声を挙げて笑い続け――
急に真顔になって、うつむいた。
そしてとても低い声で、うめくように言葉を紡ぐ。
「あの時……まゆにレストランで、京都のお土産だって、お守りを貰った時は笑ってしまったよ。健康祈願だなんて……なんと皮肉なんだろうってね」
「ゆ、悠ちゃん、どこが悪いの!?」
まゆはさあっと顔色を変え、身を乗り出す。
「結腸がんだよ」
悠馬はあっさりと言い放った。
けれど今度は、彼の瞳は輝きを失い、虚ろだった。
まるで真っ黒に塗りつぶされた画用紙のようだ。
不吉な気配にまゆの背筋に緊張が走る。
「けっ、ちょう……?」
「転職しかけていたのは本当。ほぼ決まりかけていた会社で受けた検査で結腸がんのことがわかったんだ」
悠馬は虚しく、肩を揺らしながら笑うと、頭の部分に積みあげているクッションにもたれかかる。