スーツを着た悪魔【完結】
本当に優しいのは、まゆ、お前だよ。
弱くて小さいのに、たくさん傷つけられてきたのに
それでも誰を恨むわけでもなく、こんな僕にすら「ありがとう」と言う。
それは強い人間の証だ。
お前が持って生まれた、まっすぐな強さだ。
僕はお前が眩しかった。
手に入らないとわかっていたから、なかなか近づけなかった。
けれどそれは言わないでおこう。
こんな顔、見せられたもんじゃない……。
「――ッ……」
やがて、検温にやってきた若い看護師が、悠馬を見て驚いたように声をかける。
「澤田さん、どこか痛みますか?」
「ええ……いや、どこも。検温ですね?」
落ち着いた声で否定し、体温計を受け取る悠馬に、看護師は不思議に思いながらうなずく。
包帯の隙間から覗いて見えたたのは、彼の涙ではなかっただろうか、と。