スーツを着た悪魔【完結】
「だから私も、深青と旅行に行くなら、まずここがよかったの」
そしてまゆは、深青の胸にもたれるように顔をうずめる。
「連れて来てくれてありがとう」
穏やかなまゆの声は、深青の何かに火をつける。
「まゆ……」
かすれた声でまゆの名前を呼ぶ。
ゆっくりと顔をあげる彼女の頬に、手のひらを乗せる。
顔を近づけて、唇を重ねると、すぐにそれは激しいキスに代わる。
何度も頬の向きを変え、むさぼるように舌をからませ、まゆを味わう深青だったが――
「深青、ちょっと、待って……」
腕の中で苦しげにうめくまゆに気付いて、ハッとした。
「わ、悪い……」
慌ててパッと手を離すと、
「ううん、そうじゃないの。えっと、ここ、一応外だし……」
まゆは照れたように笑って、それから「部屋に戻ろう」と、くるりときびすを返し、建物の中へと戻っていく。