塔の中の魔女
塔の中の魔女
魔女、エカテリーナの日常
エカテリーナ・フランツィエ・メイジェフの一日は、読書に始まり読書に終わる。
「マギ・ティス・バディル(望みし物を我に)」
難しい文字を発音し、指先に魔力を込める。
すると、青白い光とともにひと振りの杖が出現した。
「……朝食が食べたいのう」
今が朝なのかは、
エカテリーナの身長よりも、遥かに高い位置にある、
薄暗い塔の小さな空気穴程度の窓からは、よくわからないけれど。
「マギ・ティス・バディル」
ひらりと、
慣れた仕草で杖をひと振りする。
塔の部屋の中にある中央に置かれたテーブルに、
ふかふかのパンとスープ、暖められた牛乳が出現した。
「美味しそう、なのかの……?」
エカテリーナは、外の世界の食べ物を知らない。
知識は塔の中に積み上げるように置かれている、本のおかげで困ることはないけれど。
彼女には、外界との連絡手段がなにひとつないのだ。
このテーブルに乗っている食べ物は、
この塔に幽閉される以前に口にしたものでもあるから、知っている。
食べたこともある。
エカテリーナが求めるものは、彼女の操る魔法によって、忠実にこの塔の中に出現する。
だから、飢えて死ぬことはない。