塔の中の魔女
「ここから先は俺ひとりで行く。おまえらはここで休んでおけよ」
「ですがロゼリンさま、本当にひとりで向かわれるのですか?」
従ってきた護衛のひとりが心配そうにそう言うのへ、
「当然だろ。そういう決まりなんだから」
ロゼリンは大真面目な顔をするのだ。
とはいえ、
遠い昔から、塔の中の魔女へ、使者など遣わした記録はない。
その王規どおり、ひとり塔へ向かっても、会えるのかさえわからない。
往復に丸一日かかるその地へ向かうことそのものが、
徒労に終わるのかもしれない。
それでも。
「わかりました。ロゼリンさま、道中お気をつけて。
ただし、万が一、明日戻らない場合には我々が駆けつけることをお許しください」
「ったく、頭の固い連中だぜ。
万が一なんかあるわけないっての。
なにしろ事態は、この国ユダの危機に関することなんだからな」
「「だからこそです!」」
口を揃えて護衛たちがそう言った。
ロゼリンは肩を竦めて、
「まあいいさ。じゃあ行ってくるからな」
と、馬の横腹を蹴った。