塔の中の魔女
幼き魔女の裏事情
エカテリーナはいつになく狼狽えていた。
ビロードを張った寝椅子に寝そべって、
指が汚れないように甘いチョコレートケーキを優雅に頬張っていたエカテリーナは、
不意になにかに気づいたように慌てた。
いびつな三角形になってしまった、残りのチョコレートケーキを、
口の中にポイッといささかか乱暴に放り込み、
ふかふかの絨毯の上を、うろうろと歩く。
塔の内部は、円錐の形をしていて、内側にぐるりと階段を設けている。
本来は吹き抜けの塔なのだが、魔法で宙に浮かぶ階層がある。
そこには積み上げられた古文書があったり、古代魔法の魔導書に埋もれた部屋や、
クィーンサイズの天蓋付きベッドの置かれた寝室。
ふかふかの絨毯と寝椅子と樫の木の円テーブルがあって、食事や甘いお菓子を食べる部屋。
宙に浮かぶ複数の球体からは、仄かな柔らかな光が昼夜問わずこぼれている。
そんな部屋にいて、寝衣の姿のまま、素足でうろうろと角のない部屋の中を歩く。
「このような事態は前代未聞じゃ。…………どうしよう?」
小さく戸惑う唇から、焦りを含んだそのような言葉がこぼれた。