塔の中の魔女
この塔はエカテリーナを閉じ込めるために王が用意した、堅牢な建造物だ。
優秀な黒導師の系統を引き継ぐエカテリーナに、
投獄の身とはいえ、侍女をつける話があった。
けれどもそれをエカテリーナは断った。
「わらわにはなにも要らぬ」と。
姿形が八歳の少女が、である。
実際必要なものはなかった。
だから、最初はこの身ひとつで塔の中に入れられた。
けれどエカテリーナは、すぐさま塔の中を、自らの住み心地が良いように変えてしまったのだ。
「マギ・ティス・バディル」
唱えた魔法は、何処かの場所からふかふかの絨毯とビロードの寝椅子、樫の木の洒落たテーブルを盗みだし、出現させた。
シルクの寝衣に、天蓋付きのベッドまで。
塔の中で暮らすことになっても、エカテリーナは辛いと思わない。
王を怒らせ、幽閉される身になっても、三時には美味しいケーキにかじりつく。
昼近くまで寝そべって暮らしながら、魔法で世界中の魔導書をかき集める。
読み更けて、知識を増やす時間はたっぷりとあった。
怠惰な時間は、緩やかに何事もなく流れていった。