塔の中の魔女
蝋人形になってしまったかのように固まっている青年に、エカテリーナはようやく小さな不安を抱いた。
「なんじゃ、そなた。なにゆえ口を利かぬ?
なにか悪い物でも食したか?」
心配そうにのぞき込んだエカテリーナが、青年の両頬に手を添える。
すると彼は、はっと我にかえったように顎を引いた。
「このちびがばぁさん?」
「なんじゃ、またちびなどと。
わらわは人間をいたぶる趣味はないと言ったが、侮辱には相応の礼をいたすぞ?
たとえば、そなたを豚の姿に代えて丸焼きにして食してしまうことも、わらわにとっては簡単なことなのじゃ」
試してみるか、と杖を軽やかに振るいかける。
と、その紅葉のように小さな手を握りしめて、青年が言った。
「本当に、本当に、ばぁさん――いや、魔導師なのか!?」
青年が叫ぶ。
ビリビリと鼓膜を裂くような大声に、エカテリーナは思わず両耳を押さえた。