塔の中の魔女
王やその家臣たちは、エカテリーナがとっくに死んだと思ったのかも知れなかった。
あるいは魔女らしく、とっくに塔から抜け出してしまっていると。
魔女とはいえ、八歳の娘だ。
温情の声もあがった。
幽閉を解き、監視のもと、教育機関で保護するようにと。
けれども、それは叶わなかった。
エカテリーナの処分を見直す前に巻き起こった戦乱によって。
隣国との大戦に負け、王が崩御したのだ。
大国である隣国との戦は、この国の大地や民を疲弊させ、多くの兵と魔法使いの命を失った。
けれど、
その事実を知らないままに、エカテリーナは塔で変わらず暮らしている。
「今日はマフィンを食そうかの」とか、
「マカロンという丸いお菓子はなんじゃ?」と、
首を傾げて、のんびり気ままに暮らしていた。
そして。
五百年の時が流れる。
瞬く間に。
エカテリーナの、自らの成長を止めたその身体は八歳のままに。
変化を知らぬ少女を、時の流れは置いていってしまったのだった。