塔の中の魔女
旅立ちの序章
塔の中が闇に包まれた。
ざわざわと不穏な音が反響するように、塔の中を駆けめぐる。
エカテリーナはロゼリンの肩にしがみついたまま、動かない。
恐怖を遣り過ごすように、瞼をぎゅっと閉ざしている。
「……ちび?」
足を止めたロゼリンが違和感に耐えきれなかったのか、口を開く。
同時に、上層のざわめきが激しくなった。
「……逃げろ」
絞り出すような自分の声。
ロゼリンの頷きに安堵したのも束の間、エカテリーナは悲鳴をあげた。
「待て!
わらわを置いて逃げろと言っている!」
「嫌だ」
断言するロゼリンに、
エカテリーナは「やはり、こやつは馬鹿者じゃ」と毒づいた。
「駄目なのじゃ、わらわはこの塔に幽閉された身。
王の許しがなくば、出ることは叶わぬ」
エカテリーナはロゼリンの絹の衣に爪を立てる。
小さな抵抗を見て、不満そうに彼が唸った。