塔の中の魔女

「俺が王だろ?
ちびを連れ出したいって思ったんだ、許したことになるじゃないか」


ロゼリンの言葉にエカテリーナは首を横に振る。

その顔は今までにないくらい、焦っていた。


「駄目なのじゃ、わらわの王はルドルフ・イヴァノヴィチ・ダン・ユスポフ。
ルドルフ陛下の許可なくば、塔からは出られぬ」


「ユスポフ王は死んだ。
五百年前の罪なんて、いまさらだろ」


ロゼリンはなんでもないように言って、石畳を歩き続ける。

それを押し止めようとエカテリーナは口を開いたが、

「黙れ!そういうことではないのじゃ!
わらわは塔に幽閉されるを自ら望んだ。
それは呪縛となって、わらわを縛るもの。
禁を破り、塔を出るは――」


ロゼリンの足が、塔のかたく冷たい石畳の縁を踏み出す。

同時に、硝子の砕けるような音がした。浮遊する光の珠が砕けたのだ。


――遠くから、キイキイと小さな鳴き声が聞こえる。

そして、耳の奥に高く響く異音。
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