塔の中の魔女
「ふん、そうかぁ?
俺がユダの王っていったって、敗戦後の今、ゼルダンに歯向かってるわけじゃねぇ。
服従した小国の王に、刺客を差し向けるとは思えねぇけどな」
「今は、そうかもしれません。
しかし、ユダは魔法使いをひとり残らず殺されているのですよ?
民は安心して夜を眠れているでしょうか?
王が首都を離れ、数日空けることを不安に思わない民がいないと思いますか?」
ロゼリンは渋っていたようだが、やがてラッツェルの言葉の重要性を理解したのだろう。
頷き、王室を出る。
「わかったよ。おまえの言葉には一理ある。
兵を集めろ。出発する」
「今からですか?」
せっかく了承してもらったのに、ラッツェルは心底呆れた顔をしてロゼリンを追った。
「俺は早く魔女さんに会いたいんだよ。
おまえだってわかってるだろ?」
「ええ。あなたが、思い立ったらすぐ行動する直情傾向にあることはね」
ずけずけと遠慮のないその言葉に、ロゼリンは相手をひと睨みする。