塔の中の魔女
蒼穹への願い
意識を取り戻したとき、エカテリーナは相変わらずロゼリンの腕の中だった。
たとえ死んでも手離さないという彼の意思が、そこには残されているようで、
なんだか胸の奥がむずかゆい。
不思議な感情だと首を傾げながら、エカテリーナは身を起こす。
彼女の身につけている魔導着は沼の泥を被ったせいで、見るも無惨だ。
気を失ったまま、倒れているロゼリンの鎧や美しい絹衣も、
蝙蝠の攻撃に曝されたこと、泥を吸ったことによって襤褸のようになっている。
しかし、エカテリーナは現状を把握するためにロゼリンの手をほどく。
彼を揺すり起こすのは後回しにして、視野を巡らせた。
自分たちを飲み込んだ竜の影は、今はどこにもない。
生ぬるい風が、エカテリーナの湿った髪を重たげに撫でていた。
力なく膝をついた大地は涸れはてた沼の暗い土が覆い、
手で掬いあげると砂の塊となって風に飛ばされていく。