塔の中の魔女

顔を舐めまくる馬の口を塞ぐように手を伸ばし、明快な声で告げた。


「おう、約束だ。……ってか、顔がベトベトなんだけど」


エカテリーナは吹き出す。

声をあげて笑った。

顔を拭いながらロゼリンは憮然とした表情で、エカテリーナを睨む。

馬が再びロゼリンの頬を舐めた。


「〜〜〜〜っ」


エカテリーナの笑い声が青い空に響き渡る。

こうして、エカテリーナの長きにわたる幽閉生活は終わりを告げた。










風は強く、外の世界へ誘うようにエカテリーナの髪を浚う。

エカテリーナは立ちあがった。

ロゼリンに手を差し伸べて立ちあがらせると、馬に跨がって駆け出す。

広く枯れた大地は終わりを告げ、優しげな深緑の木々が現れた。

ロゼリンが慣れた手つきで手綱を操り、来た道を戻る。

彼を王と慕う護衛たちの元へ。

塔の中の魔女、エカテリーナとともに。
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