塔の中の魔女
なにがそこまで王妃を動かしたのか、エカテリーナにはわからなかった。
ただ、心痛に胸を痛める王妃の望みが死ではなく、生きて償うことならば、そうしようと思った。
「――行きます、塔へ」
エカテリーナの言葉に父は「そうか」と頷いた。
逆光の中にあっても、父の表情が苦しげに歪んだことがわかった。
「父さま、ありがとう」
これまで育ててくれて。慈しんでくれて。
エカテリーナがこぼす涙を拭いながら、父は声を失ったようになにも言わなかった。
代わりに抱きしめられる。今生の別れを惜しむように強く。
父の腕の中で、エカテリーナは誓った。
生きて償う。
生涯をかけて。
――その数日後、
エカテリーナは貴族が乗るとは思えぬ幌を被せただけの粗末な馬車で僻地に送られ、
ひとりその地に置き去りにされた。