塔の中の魔女
涎……。
気恥ずかしさにエカテリーナはロゼリンから目を反らす。
ロゼリンがため息を吐いた。
「とにかく、馬から降ろすぞ。
旅の疲れが溜まってるのはわかってるから、すぐに寝室を用意する」
「うむ」
エカテリーナは顔を反らしたまま、頷いた。
すぐにエカテリーナの身体が宙に浮いた。
逞しいロゼリンの腕に持ちあげられ、地に降ろされる。
ふたりを乗せてきた馬の手綱を、従者が預かり厩へ引いていった。
ロゼリンの服の裾を握りしめたまま、エカテリーナは前を見た。
「……わあ」
目の前には、初めて目にする美しい藍緑の宮殿。
五百年前に同じ場所に建っていた白亜の宮殿とは趣の違う、
絢爛で壮美なその建造物に、エカテリーナは目を丸くする。