塔の中の魔女




「おい、おまえ、鞍を乗せてくれ」


王に気安く声をかけられた馬番の男は、

王の馬に立派なユダの王族の紋章の装飾をあしらった鞍を乗せながら、

不思議そうに問いかける。


「お出掛けになるんで?」


「ああ、ユダの僻地、塔の魔女さんのところへな」


ロゼリンの言葉に、馬番もラッツェルのときのように首を傾げている。


「塔の魔女?五百年、幽閉されているっていう、あの?」


「ああ」


「…………でも、五百年って、生きてるんですかい。
ユダの魔法使いは確かに長寿ではありやしたが、
それでも八十や九十が普通じゃあないんで?」


「生きていても、歩けないくらいよぼよぼの婆さんになってるかもな。
なにしろ、外に出たことさえないわけだしな」


「行く意味があるんですかい?」


「さあ、わからねぇ」


不思議そうな馬番に、ロゼリンはキッパリと言い切る。


馬番はその一言に唖然となった。
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