夢の欠片
以前の私なら、自分だけ幸せになってる父を許せなかったかもしれない。


でもなぜか幸せそうな父を見てると、心からおめでとうと言うことが出来た。


さらに驚くことに自分の存在が、奥さんに知られたらまずいんじゃないかと、父を心配することも出来ている。


私はそんな自分を誇らしく思いながら、父の様子を窺った。


「心配してくれてありがとう。

大丈夫、妻にはちゃんとひなのことは話してあるから」


それを聞いて、私は自分が愛されているんだと実感する。


そして私の存在を認めてくれる人がいたことを嬉しく思った。


「お父さんのこと心配してくれるなんて……

ひなはいい子に成長したな?

お父さん……嬉しいよ」


涙ぐみながらそう話す父に、最近まではそうじゃなかったんだよ……と心の中で思う。


「お父さんが幸せそうで良かった」


本当にそう思って口に出して言ってみた。


父は少しだけ眉間に皺を寄せながら、考え込むように黙りこむ。


それからじっと私の目を見ると、言いづらそうに口を開いた。


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