夢の欠片
私はそんな父を見て、驚きを隠せなかった。


まさか父の方が母を好きだったなんて……


「それでようやく結婚まですることが出来て、お父さんは本当に嬉しかったんだ」


当時のことを思い出しているのか、父はどこか遠くを見ている。


「子供が出来たって知った時も、飛び上がって喜んだよ

ひなって名前もお父さんがつけたんだぞ?」


得意気に笑ってそう言った父の顔が、今度は一転して悲しそうに歪む。


「ひながまだお腹にいた時……

俺はあやを裏切った」


さっきまで幸せ一杯の夫婦の話だったのに、なぜそんなことになったんだろう?


そんなに好きだった母を、なぜ急に裏切ることが出来たんだろうと不思議に思った。


いくら想像力を働かせても、私には何も思い浮かばない。


「浮気したんだ……

当時部下だった女子社員に誘われて……

ひなにこんなこと本当は言いたくないけど、酒に酔った勢いで一度だけ過ちを犯してしまった」


お母さんを傷つけてしまったこと。


そのせいで、私にまで迷惑をかけたことを悔やむように、父はたった一度の過ちだったことを強調する。


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