夢の欠片
「お母さんは俺を納得させるために、その人とひなを定期的に会わせて、俺との話し合いの時に信憑性を持たせようと考えたらしい。

最初の目的はたぶんそのためだけだったはずなんだけど、彼はとても優しくて、ひなもすごくなついてたって言ってた。

一回、二回と会っていくうちに、彼が父親だったらどんなにいいか……って、どんどん欲が出てしまったみたいで……」


お母さんは自分の都合で、あの人を離婚させたってこと?


そんなこと、なんにも知らなかった。


それにそんなこと微塵も感じさせないくらい、健は私に優しかったのを覚えてる。


「俺との話し合いで、一度は目的も達成したし、もう会わないってことになったみたいなんだ。

だけどひなが熱を出して吐いてしまったことがあって、向こうの事情も考えずに電話で呼び出したみたいなんだよ。

そしたら彼は来てくれた……

でもそれはお母さんへの愛情からではなくて、ひなが心配だったからだったんだ」


私の……ため?


もう会わないって約束したのに、健は私のために来てくれたんだ。


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