夢の欠片
父はそこまで言うと、一旦言葉を切って、悲しそうに瞳を揺らした。


何があったの?


コクリと唾を呑み込むと、父は再び話し始める。


「お母さんはその時にはもうボロボロだったんだ。

たぶん……彼を愛してたんだな?

彼の気持ちが自分にはなくても、愛してた。

まあだからこそ辛かったんだろうけどな?

いくらお父さんがお母さんを大切に思っていても、お母さんの気持ちがお父さんに向くことはなかった。

先に裏切ったのはお父さんだし、それはそれでも良かったんだ。

ひなと暮らせればそれだけで良かった。

でもそんな俺を彼と重ね合わせて、みんな自分よりもひなを愛してるってお母さんは思うようになったんだ。

自分は愛されない人間だって思い込むようになった。

たぶん精神的にも不安定だったんだと思う。

自分だけを愛してくれる人を求めて、浮気を繰り返すようになったんだ……」


そんな……


お母さんの心が壊れてたなんて……


私のせい?


私がいなければお母さんはもっと楽に生きれたのかもしれない。


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