夢の欠片
私はお預けをくらった犬みたいな気持ちになった。


それからハッと我に返ると、からかわれたことにようやく気づく。


おもいっきりほっぺたを膨らませて翔吾を睨むと、大声で叫んだ。


「翔吾のバカ!!

もうキライ!!」


そう言ってクルッと背中を向けて、膝を抱えていじける姿勢を見せる。


「ごめん、ごめん、悪かったよ

ひながあんまり可愛いから、ついいじめたくなっちゃったんだって

ごめんな?」


後ろから慌てた声で謝ってる翔吾には悪いけど、私は可愛いと言われたことが嬉しくてついにんまりと笑ってしまった。


そんな私の様子に気づいたのか、翔吾が私のそばに近づいてくる。


「おまっ…!笑ってんじゃねぇか!

騙したな?謝って損した!」


「さっきのお返しだもん

自分だって騙したくせにぃ」


そう言って反撃すると、翔吾が私をくすぐり始めた。


キャーキャー言いながらじゃれあっていると、なんだか不思議と満ち足りた気分になる。


お兄ちゃんがいたらこんな感じだったのかな?


今まで知らなかったこの穏やかな時間は、私にとって、もうなくてはならないものになっていた。


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