夢の欠片
私はもう充分だからと、彼女に言った。


これからは私への罪悪感よりも父への愛情を優先させてほしい。


愛未さんもまた、私に全てを話したことで、ずっと囚われていた過去から解き放たれればいいのに……と思った。


「今日はもう帰ります」


そう言った私を彼女は引き止めた。


もうすぐ父が帰ってくるからと。


でも私はもう愛未さんの話ですでに胸がいっぱいで、父と話す余力が残っていないように感じた。


「また改めて父がいるときに来ます」


そう言うと、愛未さんは少しだけ不安気な顔をして、私に聞いてくる。


「ひなちゃん……

ほんとにまた来てくれる?」


愛未さんはたぶん……


自分の話のせいで私がもう父に会いに来なくなるかもしれないと思ってるみたいだった。


私がいくら二人を恨んでないし、むしろ幸せになってほしいと言っても、それを素直には信じてはくれない。


それだけ愛未さんの中で父や私への罪悪感が、長い間心の奥底にこびりついていたんだろう。


そう簡単には剥がれ落ちてくれないらしい。


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