夢の欠片
一度だけ、やはり父のところに遊びに行った時、夕飯に誘われて遅くなってしまったことがあった。


その時の心配ぶりといったら、親以上だと思う。


携帯に並ぶ着信の数が、それを物語っていた。


私はそんなに翔吾が心配しているなんて全然自覚していなかったものだから、連絡を入れるのも忘れてのんびり夕食をごちそうになってしまっていた。


着信に気付いたのは、父と愛未さんが送ってくれた車の中だった。


急いで翔吾に連絡すると、私の無事を確認して本当に安心したように「良かった」……と呟いた。


ようやく家に着いた時には、かなり長いお説教が待っていたことは言うまでもない。


それからというもの、遅くなる時には必ず連絡を入れるのが私と翔吾のルールになっていた。


鞄から携帯を取り出すと、翔吾の番号を呼び出す。


プルルルル…プルルルル…プルルルル…カチャ


「もしもし?ひな?」


電話に出た翔吾はすぐに私の名前を呼びかけた。


私はそれが嬉しくて、思わずにやけてしまう。


何だか恋人同士みたいだ……と思ったから。



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