夢の欠片
「あ!翔吾?

お父さんのとこから今帰ってるとこだから、あと30分くらいで家に着くと思う」


「そうか、わかった!

駅まで迎えに行くから、着いたら連絡しろよ?」


――えっ!?


まだ7時だけど……


「あの、大丈夫だよ?

まだ明るいし……」


そう言ったのに、翔吾は全く耳を貸さない。


「いいから!わかったな?着いたらすぐ連絡しろよ?」


その勢いに圧倒されて私は頷くしかなかった。


「わかった……ありがと……」


ようやく私がそう返事をすると、翔吾は納得したように電話を切る。


はあぁ……


前言撤回!恋人同士みたいじゃなくて、これじゃお父さんみたいだ……とガッカリした。


口調も心配の仕方も、娘か妹みたいな接し方に、私は少しだけ不満だった。


駅に着いて電車に乗り込むと、冷房が効いてて気持ちがいい。


汗ばんだ肌が次第にサラッとしてくるのを感じた。


でもそれは一瞬のことで、三駅しかない距離はあっという間に過ぎてしまう。


ホームに着いて電車から降りると、またじっとりとした湿気を含む外気が肌に絡み付いた。


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