夢の欠片
「そう思うと引っ越さなくて正解だったなぁ

ひなに会えなくなるとこだった」


そんな風に言ってもらえて、少しだけくすぐったい気持ちになった。


そして同時に、もしかしたら健もそう思ってくれてたらいいなぁ……とあらぬ期待を抱いてしまう。


「お父さんにそう言ってもらえると、会いに来て良かったって思うよ」


私がそう言うと、父はますます嬉しそうに笑った。


「お父さんもひなが会いに来てくれて本当に嬉しいし、ひながそう思ってくれることもすごく嬉しいよ」


目を細めながら、愛しそうな顔をしてそう言う父の横で、紅茶とケーキを運びながら愛未さんもまた、そんな父を愛しそうな眼差しで見つめる。


「ひなちゃん、アップルパイ好きかな?

私が作ったんだけど、食べてみて?」


父を見つめていたそのままの眼差しで、今度は私を見ながら愛未さんがケーキを勧めてくれた。


愛未さんが私のことを本当の娘のように大事に思ってくれていることが、ひとつひとつの接し方や話し方から感じとることができる。


私はもう一人お母さんが出来たような気持ちになって嬉しかった。



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