夢の欠片
そんな彼女の申し出に驚いたものの、内心チャンスかもしれないと思った。


あのマンションに入ることが出来れば、健の部屋を探せるんじゃないかと思ったからだ。


そんな思いを悟られないように気を付けながら、さっきの質問に答える。


「えぇっ、いいんですか?

私なんかがお邪魔しちゃっても……」


「いいのよ!じゃあ決まりね?行きましょう?」


彼女が歩き始めると、花純美と呼ばれた女の子は私の手に自分の手を絡ませてきた。


「お姉ちゃん!一緒に行こ?」


人懐っこい笑顔を見せて、嬉しそうに私を引っ張っていく。


お母さんはそんな私たちを優しそうな笑顔で見守りながら、マンションのエントランスへと向かった。


オートロックの鍵を開け、エレベーターに乗り込むと、彼女は12階のボタンを押す。


私はずっと花純美ちゃんと手を繋ぎながら、お母さんの指の動きを目で追った。


12階に到着して、長い廊下を歩いていくと、花純美ちゃんが私を見上げながら笑う。


「今日ね?お兄ちゃんは野球だけど、パパはお休みなんだよ?」


唐突にそう言われて、少しだけ驚いた。


< 162 / 289 >

この作品をシェア

pagetop