夢の欠片


いつものように出かけようと玄関のドアを開けようとしたとき、ふいに背後から切羽詰まったような声がした。



「ひな、どこに行くの?また夜遊び?」



普通の家庭なら、中学生がこんな夜遅くに出かけるなんてありえないのかもしれないし、母親のこんな言葉も当たり前なのかもしれない。


でも、うちに限ってはそんな常識は当てはまらない。


たまたま家にいて、たまたま娘が出かけるのを目撃しただけの、気まぐれなのだから。



「うるせんだよ!くそばばぁ!
なにしようがどこに行こうがあたしの勝手だろ!」


イライラしながら、そう言い捨てると私は思いきり母親を睨みつけた。


その瞬間、母は顔をくしゃくしゃに崩して、涙声に変わる。


「何……言ってるの?
そんなわけ、ないじゃない!
なんで?なんでそんな風になっちゃったのよぉ……」


はぁ?あんたのせいだろうが!
相変わらず自分だけ被害者面しやがって!ムカつく!!


私にすがり付きながら泣き崩れる母親を見て、余計にイライラが治まらない。


「うざいんだよ!!」


怒鳴りながら、母親をおもいっきり蹴り飛ばした。


小さく悲鳴をあげながら玄関の壁に叩きつけられると、母はそのままうずくまって動かない。


ざまあみろ!!
今さら母親ぶりやがって!


倒れた母親の姿を見ても何の感情も湧いてこない。


そのまま回れ右をすると、母親を置き去りにして玄関のドアを開けた。


その瞬間、解放感が私の中を通りすぎる。


この牢獄みたいなアパートから抜け出した時の、いつもの清々しい瞬間だ。


さぁ、出かけよう。


私を待ってる、夜の街に……


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