夢の欠片
「最初はほんとに頼まれたから仕方なくって感じだったのが、だんだん楽しくなっていったんだ……

ひなのことが本当に可愛くて、俺にパパになってって言ってくれて……

それから中田さんに会って話し合いもうまく終わって、ようやく俺の任務は終わったって思ったんだ……だけど」


健はそこまで言うと、気まずそうにさとみさんの方を見た。


さとみさんは静かに頷いて、大丈夫よと言うように健に目配せする。


健はそれから言いづらそうにさっきの続きを語ってくれた。


「そこで終わらなかったんだ……

一旦は妻にも迷惑かけちゃってるから、もうこれっきり会わないって約束したはずなのに、しばらくしてあやから電話があって……

ひなが熱を出して吐いてるってパニックになってて……

俺はひなが心配でさとみが行かないでって言ったのに無視してかけつけたんだ」


私のため?


健は私のためにさとみさんのこと振り切ってまで来てくれたんだ。


「あやは一人で子供を育てるには弱すぎるって思った

俺はひなを放っておけなくて、それからもひなが会いたがってるって言えば、会いに行ってた

正直に言うと、あやよりもひなのために一緒にいたようなもんだったよ

さとみのことは、いつでも俺の味方だと勝手に思いこんでたから、許してくれるって思ってたんだ……

どんなに傷つけたかなんてわかってなかった……」


その当時を思い出したのか、健は辛そうに顔を歪めた。


隣に座っているさとみさんは、そんな健の肩を安心させるようにポンポンと叩く。


それから今度は私の方に向き直って、健の代わりに話し始めた。


「健がひなちゃんたちのところへ行っちゃってから、一人になった部屋で考えたの

お腹の子のために一番いい方法はなんだろうってね?

この人の性格からして、きっとこれからもひなちゃんに何かあれば駆けつけるんだろうなって思った……

だけど私はそれに耐えられるほど強くなくて……
そんな精神状態のまま健と生活するのはお腹の子に良くないって思ったの

ずっと子供が出来なかった私にとって、ひなちゃんの存在はすごく羨ましかった……

たぶんひなちゃんのお母さんに嫉妬してたんだと思う……」


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