夢の欠片
「行ってきまーす」
夏休みに入ったばかりの昼下がり、私は制服を着て学校に向かう。
今日から一週間、数学と理科の補習を受けに行くことになっていた。
面談で担任が勧めてくれた例の補習だ。
母は私があの夏の終わりから急に勉強を頑張りだしたことを驚いていたけれど、喜んでもくれている。
私が翔吾のところから自宅に戻った時、あのいやらしい目をした伊丹の姿はすでにいなくなっていた。
私が書き置きして出ていったあと、伊丹と一緒にいる意味が無くなったのだと母は言った。
私と過ごせる時間を増やすために、伊丹の経済力を手にいれようとしたことも、私が出ていってしまえば何の意味もない。
自分がどれだけ的外れなことをして、娘の側にいようとしたのかが、ようやくわかったみたいだった。
母は伊丹と別れ、夏の間仕事に復帰して働きながら、私の帰りを待っていてくれたらしい。
私のために男と別れてくれたのは、これが初めてだったし、母が男なしで過ごす時間がこんなに長いのも初めてだった。
あれからもうすぐ一年が経つけれど、母は男を連れ込むことも、夜な夜な出かけることもなくなっている。