夢の欠片
中田の父が言った「あやはひなを離したくなかったんだ」という言葉が、頭の中でこだまする。


本当はきっと母は私を愛してくれてたのかもしれない……


だけどその愛し方をどこかで間違っちゃったんだとしたら、この歪んだ愛情をようやく元に戻せるチャンスなのかな……と思った。


まだ全てを許せるほど大人じゃないけれど、時間が経てば私のガサガサだった心もだんだんツルツルになっていくだろう。


昔を思い出しながら通学路を歩いていると、補習に行くんだろう生徒達がちらほらと見え始めた。


それぞれが声を掛け合って、だんだん群れをなしていく。


それをぼんやり眺めながら、かつては自分もあの中にいたんだなと不思議な気持ちになった。


あちら側とこちら側……


翔吾や舞さんがそんな風に呼んでいたのを思い出す。


ひなはあちら側に帰ったんだから……


こちら側にいなくていいならその方がいいんだから……


そう言って自分達の居場所をこちら側と呼んで私をあちら側に帰そうと一生懸命だったっけ……


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